昨年末の成宮寛貴の薬物疑惑報道とそれに続く引退発表では、『成宮ゲイ報道引退』(12月10日スポニチ見出し)とされました。ここに来て、すでに市民権を得ていると思われていたLGBTが、いまだにゴシップ扱いされているニッポン。
その一方で、大人気のマツコ・デラックスをはじめ“おネエタレント”とされる人々はテレビ番組に引っ張りだこです。この奇妙な状況をどう見ればよいのでしょうか。
LGBTのドキュメンタリーで「小指を立てて」と演出
――成宮さんの件ではセクシャリティについて「この仕事をする上で人には絶対知られたくない」と書いていましたが、日本の芸能界ではカミングアウトする人は少ないですよね。
榎本「そうですね。成宮さんの件のときのように、セクシャリティを当然のようにネガティブなスキャンダル扱いするうちは出さない方がいいと思っている人、出さないようにさせる人が多いのも理解できます。」
――日本のテレビでは、ゲイにはマツコ・デラックスさん達のようなオネエ的なイメージが強いです。
榎本「ゲイとオネエは違うんですけどね。オネエは『誇張された女性語を話す男性』というイメージで、オネエはゲイであることが多いですが、すべてのゲイがオネエではないです。
バラエティ番組などでは、制作側から『オネエっぽく』というオーダーをされることもあります。そういう風潮だからこそ、カミングアウトすることで、仕事へ支障をきたすなど、なおさらカミングアウトしづらい状況なんだと思います。」
――実際に、そういったケースにあったことはありますか。
榎本「あります(笑)。日本のLGBTについてのドキュメンタリー番組を撮るかもしれないので話を聞かせてほしいということで、弊社の外山(※)とミーティングに行きました。その時に言われたのが『見た目ではわからないんですね』『話し方でもわからないんですね』。」
※Letibee取締役 外山雄太氏。ゲイであることをカミングアウトしている。
――え! その人たちは何を求めてるんでしょうか。
榎本「視聴者が番組を見たときに、ぱっと見で、何をテーマにしたドキュメンタリー番組なのかわからないので、外山は『小指を立てたり、仕草を女っぽい感じにしたりできますか?』と言われていました(笑)。」
――それは、真顔でですか?
榎本「真顔ですね。」
――そういう人がいるんですねえ。
榎本「ゲイ=オネエだと思っているんです。間違ったステレオタイプを正しいと思っているんです。」
――榎本さんは何か言われたんですか? 小指立てて的な。
榎本「レズビアンに関しては、その特徴の一部を切り取ってバラエティなどでネタにするというほどの強烈な特徴がなかなかなかったりするので、社会に浸透しているステレオタイプというのはまだないんじゃないかと思います。」
――過剰な美人とかタカラヅカみたいなイメージなのかもしれませんね。
カミングアウトとは秘密を打ち明けるだけではなく、LGBTとして生きていくこと
“ゲイ=オネエ”という思い込みやレッテルが広く浸透し、いわば「ずれた形で市民権を得ている」のが日本の現状のようです。その辺について、さらに詳しく聞いてみました。
――先日、Letibee LIFEで、日本語と英語ではカミングアウトの意味が違う、という記事を書かれていたのを読みました。それってどういうことでしょうか。
榎本「ジャーナリストの北丸雄二さんの記事ですね。日本ではカミングアウトは『秘密を暴露する』『秘密を打ち明ける』と一般的に捉えられています。しかし英語で、カミングアウトとは、たとえば、『ゲイだ』と言うことだけを指すのではなく、『ゲイである自分を受け入れ、自分のありたい状態で生きること』と捉えていいと思います。
カミングアウトはもともとComing out of the closet(※)という言葉から来ていて、自分がどんな人間なのか、生き方をするのか、価値観を持っているのかと言うのを出して生きていくことだと北丸さんは言っていて、私も自分自身、カミングアウトオブクローゼットに近い感覚ですね。」
※「押し入れから出てくる」つまり、(真の自分を押し込んでいた)クローゼットの中から出て真の姿を開放することの比喩。
――今回、成宮さんの件では「アウティング」という言葉がよく聞かれましたが、榎本さんは前回「成宮さんの件はアウティングと言うことには抵抗があります。」とおっしゃっていました。それではアウティングとはどういうものなのでしょうか。
榎本「当事者本人の許可なく、本人の性的指向や性自認の秘密を周りの人に言ってしまうことを“アウティング”と言います。
例えば職場の場合、当事者が信頼のおける上司に打ち明けるとします。その後、本人に確認をとらずに、上司が冗談でも他の人に対して『この子、レズビアンだから』と言ったり、『あの子はレズらしいよ』と噂を広めたりしたら、アウティングをしたことになります。」
――アウティングとカミングアウトは違うものなんですね。アウティングされたときのダメージは人それぞれだとは思いますが、具体的な事例などありますか。
榎本「2016年6月に社員が職場を提訴した、愛知県にあるヤクルトの工場での事例(※)が挙げられるかと思います。
これは極端な例ですが、ゲイという噂が広まって、会社に居づらくなったり、会話がしづらくなって離職したり、メンタルヘルスが参ってしまうケースはあると思います。うわさが流れてしまうだけで精神面としてはダメージがあると思います。」
※トランスジェンダーの会社員が、職場でカミングアウトを不当に強制されて精神的苦痛を受け、うつ病を発症したとして、勤務先の愛知ヤクルト工場に損害賠償を求める訴訟を起こした。
訴状によると、社員が性同一性障害の診断書を提出し、職場では男性名のままで働きたいこと、ただ更衣室は男性用を使わなくて済むように上司に相談。しかし結果、会社は掲示物や名札を女性名に変え、朝礼で3回、本人にその旨を全社員の前で言わせた。
もしカミングアウトされたら…「無理にクールに振る舞うことはないです」
――会社員生活をしていると、本人の興味に関係なく噂に接してしまうことがありますよね。そういった時はどう対応したらいいのでしょうか。
榎本「その噂が広める価値があるのかを考えてみてほしいですよね。自分がその情報に触れたとき、嫌悪感を抱くのか、ゴシップと感じるのか。なぜそう思うのかを、一度立ち止まって考えてみてほしいです。
嫌悪感を抱く理由としては、LGBTについて知識がないこともあります。知識がつけば、噂のネタにするものじゃないと気付くのではないでしょうか。また誰かに言ったあと、当事者本人がどんな思いをする可能性があるかを考えてみてください。」
――では、何も言わないでおく、というのがいいのでしょうか。
榎本「噂を聞いたら『黙っておく』『触れずにいる』のではなく、言われてもし衝撃を受けたのなら、なぜそう感じたのか考えてみてほしいです。LGBTについて知らなかったら調べる、もし可能ならば本人に話をしてみるなどをして、自分と向き合う方向に動いてみたほうがいいと思います。」
――自分の価値観を考え直す機会なんですね。
榎本「人には誰しも“無意識の偏見”があります。自分では正しいと思っていても、そうじゃないものが世の中にはあります。そういった“無意識の偏見”を持っていないか、自分を振り返るいい機会なんです。」
――もし、知人にカミングアウトされたらどのように振る舞えばいいのでしょうか。
榎本「無理にクールに振る舞うことはないと思います。驚いてもいいですしね。ただ、LGBTについて知らなかったのなら知るいい機会と思ってほしいですね。それに素直に本人に聞いてみるのもいいと思いますし。知ろうとする姿勢が大事かと思います。
他の誰にも言っていない状態でカミングアウトされるということは、信頼されているということ。LGBTについてわからなかったとしても、一緒に考えようという立場をとることでスムーズにいくと思いますね。」
――愛知県のヤクルトのケースだと一緒に考えようとしなかったんですね、きっと。
榎本「セクシャリティ=性に関わることというイメージがあるので、職場の人と話しにくいというのはあるかもしれません。たしかに性の部分もありますが、人としてどう生きるかという話なんです。もっと職場でも話し合える環境になればいいですね。」
出典:成宮を“ゲイ”と騒ぐ一方でマツコは大人気…LGBTへの奇妙な視線 | 女子SPA!