昨年12月、バイセクシュアルを公言しているメイプル超合金・カズレーザーの出演する日本マクドナルドのキャンペーン動画での、「罰ゲーム」として嫌がる男性の頬にカズレーザーがキスをするシーンが、LGBTの人々にとって不適切な表現ではないかと疑問の声があがり、削除されました。
今年に入ってから、アニメ「タッチ」の上杉達也役などで知られる声優・三ツ矢雄二がゲイをカミングアウト。
LGBTへの理解は、個人にとっても企業や国にとっても、必要なリテラシーのひとつになりつつあるのが2017年現在といえるかもしれません。
第1回、第2回に引き続き、企業向けLGBT研修や、LGBTに関する情報を発信するウェブメディア「Letibee LIFE」、LGBT関連のマーケティング・リサーチサービスをする企業Letibeeの代表で、自身も性的マイノリティであるという榎本悠里香さんにお話を聞きました。
「レズビアンだと確信が持てたことでふっきれましたね」
――榎本さんはいつから自分はLGBTに該当すると気付いたのでしょうか。
榎本「きっかけは留学でした。それまで自分が何者かわからないということが辛かったのですが、確信が持てたことでふっきれましたね。自分は女の子が好きなんだ、しょうがない! と。
ただ、ふっきれても人生の悩みはなくなりませんから。例えば親と、将来の私自身の子供の話をするときとか、どうしようかとも思うんです。でもそれはそれ、これはこれ。レズビアンでもストレートでも、持つ悩みは根本は大差ないと思います、みんなそれぞれ自分の人生これでいいのかとかは思ってるんじゃないかなと思うので。」
――いつからカミングアウトしはじめたのですか?
榎本「21~22歳の頃ですね。それまで自分が何者かわからないまま生きてきていたんです。誰かの認定を受けるようなものでもないので、ようやく自分のセクシャリティが腑に落ちて、すっきりした後から周りに言い始めました。
それに新卒で入社したのが弊社の出資元であるガイアックスなんですが、入社面接を受けたときに、その人それぞれのライフストーリーを聞かれました。セクシャリティな部分の話をしないと自分が何に影響を受けたかなどを語れなかったので、明かしたのですが、面接官は『あぁ、そうなんだ。で、次の面接なんだけど』というあっさりした反応でしたね(笑)。」
――カミングアウト前に、周りに噂されるようなことはありましたか。
榎本「普段の会話でも『やめてよ、レズじゃないんだから』と聞くこともありました。噂をされるのが嫌だと思っていた一番の理由は、セクシャルマイノリティは恥ずかしい、あまりよくないものというイメージが実は自分の中にあったからだと思うのです。
というのも、メディアによって培われた『レズ=禁断の』や『ホモやオカマ=罰ゲームの相手』というイメージによって、レズビアンであると言うことに対して、うしろめたさを感じていました。」
――でも相手は、「レズじゃないんだから」と無意識に発言しているんですよね。
榎本「そうですね。だからこそオープンにすることで今まで通りに接してもらえなくなるかも……と思うこともありました。毅然としなければと思いつつも、怖い気持ちがありましたね。」
――周りに話すようになって、考え方に変化はありましたか。
榎本「言い続けたほうが、自分自身の居心地がよかったですね。自然体で居れることがわかりました。今は昔抱いていたうしろめたさもなくなりました。」
一橋大学のアウティング事件は衝撃だった
――一橋大学(※)の件は、かなり大きく報道されていましたが、どのように受け止められたのでしょうか。
(※編集部注:一橋大学法科大学院3年に在籍していたA君は、同級生の男子学生B君に恋愛感情を抱き告白。その後B君は同級生10名でつくるLINEグループで、A君がゲイであることを暴露。それをきっかけにA君は心身に不調を来たし、2015年8月24日、校舎6階から転落し死亡。)
榎本「2015年の東京は、4月の渋谷区の同性パートナーシップ証明書の発行が発表される条例の施行など、毎日のようにLGBTのポジティブなニュースなどが目に入る状態でした。地方に比べてLGBTへの理解が進んでいると言われている東京で、あの事件が起こったのは衝撃でしたね。」
――確かに「東京で」というのは意外でした。一橋大学の件は、アウティングに当たるんですよね?
榎本「そうですね。もし当事者の彼に相談できる人がいたら。ばらすような人は願い下げだ、と言えるような他のコミュニティを持っていたら、事態が変わっていたのかなと思っています。」
国や企業が変われば、世の中の空気はガラッと変わっていく
――榎本さんの会社Letibeeでは、LGBTの研修もされているんですね。
榎本「セクシャルマイノリティの人に“まったく会ったことがない”のと、研修や、ワークショップを通じてでも“会ったことがある”のとでは、その後の関心度が変わってきます。」
――どんなところから問い合わせがくるんですか?
榎本「企業のダイバーシティ推進部などですね。話をきくと、『社内にLGBTの人は普通にいると思うし、お客さんにもいると思う。もしその方に差別するような対応をしないように、研修をしないといけない』という声もあります。
中には、ゆくゆくマーケティングや商品開発に活かしたいと思ってる方からの問い合わせもあります。」
――商品開発やマーケティングも視野に入れているとは意外でした。
榎本「マクドナルドで、ダンディ坂野さんとカズレーザーさんが出演して罰ゲームにキスをするというCMがありました。これは非難を浴びて1日でストップしたそうです。何が面白くて、何が面白くないのかは時代によってどんどん変わっていきますから、古い価値観のままでいることの危うさが分かる事例だと思います。
同じマクドナルドでも台湾のCMでは、子供が紙コップに『僕は男性が好き』とゲイを告白し、父が『それでいい』と受け入れるCMを流しています。」
――同じ企業でも国によってだいぶ違いますね。
榎本「LGBTの知識、理解がないことで企業にとってリスクがあると知っておいた方がいいと思います。」
――欧米はキリスト教文化によるタブーとして同性愛差別がありますが、日本の場合、厳然としたものではなく、あいまいでぼわっとしているのではないでしょうか。
榎本「国ではなくて都市部の話になってしまうのですが、パリに住んでいた知り合いのレズビアンの友人は、日本は寛容とも何とも言えない雰囲気だと言っていました。
パリでは同性の人と人前で手をつないだり、キスしたりするのも、「当たり前」だったから抵抗なかったけど、それと同時によく誰かが心無い野次を飛ばしてきていたそうです。ヘイトと許容がまじりあっているんですね。
でも東京で同じことをしても、気持ち悪いと思っている人がいてもほとんどの人は見てみぬふり、見なかったことにするって言ってました。」
――確かにそうかも。
榎本「ただ文化的には日本人は新しい行事など、取り入れるのがうまいほうだと思うので、どうやってその空気を作っていくかだと思います。国や企業が変われば、世の中の空気はガラッと変わっていくと思うんです。」
出典:カズレーザーのCMで炎上したマクドナルド…LGBTの現在を当事者が語る | 女子SPA!