キャプチャ

◆孤立しがちなLGBTがコミュニティを通じて仲間と繋がるアプリ「ネスティ」

 渋谷区におけるパートナーシップ条例成立、米国連邦最高裁における同性婚に関する判決など、2015年はLGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー)にとってさまざまな動きがあった年だった。LGBTという言葉も頻繁にマスコミに登場するようになり、日系企業のLGBTに関する施策も徐々に進んでいる。

 日本におけるLGBTは人口の5~10%、およそ13人に1人といわれ、これは左利きの人とほぼ同じ割合。しかし仕事や恋愛など、LGBT当事者がカミングアウトをして生きるには環境が整っていないのが現状だ。LGBTの人たちの情報格差を減らすために生まれたのが、趣味や関心、悩みごとを共有することでつながるコミュニティアプリ『nesty(ネスティ)』で、サービス開始にあたって渋谷で発表会が開催された。

「ネスティ」をリリースした、セクシュアルマイノリティをターゲットにしたソーシャルベンチャー企業「レティビー」の代表取締役、外山雄太さんは自身もゲイを公表している。

LGBTに特化した新しいオンラインコミュニティアプリ「ネスティ」登場。LGBTが抱えるリアルな問題とは?

「弊社のミッションは、すべての人が自分のセクシュアリティに関わらず幸せを自由に追求できる社会を実現するということ。コミュニティアプリ『ネスティ』の開発、企業向けLGBT研修、コンサルティング等の事業を行っている。

 僕は北海道出身で父は校長と、家庭も町も保守的な場所で育った。ジェンダー的な男らしさ、女らしさに子供のころから違和感があり、高校時代の恋愛でも男性が好きになりゲイだと気づき、少しずつ周囲にカミングアウトしていった。

 しかし実際のLGBT当事者はカミングアウトができないことが多い。日本でもLGBTは約1000万人いると言われているが、自分の中に抱え込んでしまい、生き生きと生活できる社会ではない。僕らLGBTとしての切り口で何ができるかを考え、彼らが抱える孤独を解消したいということで、仲間とつながることを目的とした『ネスティ』をリリースした」

 アプリ開発にあたりLGBTの人たちにインタビューを行った結果、浮かび上がった課題が「コミュニティと情報の欠如」「地方と都心の格差」「出会い系アプリやゲイコミュニティタウンに慣れない人がいる」ということ。

 ネスティはこれらの課題を踏まえて作られた。アダルト系とは異なり13歳以上は利用可能で、LGBTだけに限らず、ストレート・アライアンスと呼ばれる支援者、賛同者も利用できる。プロフィール設定は名前(本名は不要、ニックネームで可)、誕生日、セクシュアリティをタグの中から選ぶ。アプリの中には「ネスト(=巣)」と呼ばれるコミュニティがあり、プロフィール重視ではなく、コミュニティをベースにコミュニケーションを進めていくのがメインとなる。

LGBTに特化した新しいオンラインコミュニティアプリ「ネスティ」登場。LGBTが抱えるリアルな問題とは?

 タグを使用してセクシュアリティや自分の好きなもの、悩み、自分に必要なコミュニティなどを見つけることができる。たとえば「映画好き」で入力すると映画関連のコミュニティが出てくる。好きなものでつながることができる仲間を探したり、自分でもコミュニティを作ることができて、自身で自分の居場所を作るというのがコンセプトとなっている。

LGBTに特化した新しいオンラインコミュニティアプリ「ネスティ」登場。LGBTが抱えるリアルな問題とは?

「従来のLGBT向けのアプリは顔や体型を明らかにするのが必須というような暗黙の了解があり、1対1の出会いが基本になっていた。しかし『ネスティ』では、共通の友だちとの交流をメインにしているところが現状のアプリとの最大の違いで、長くつながれる仲間を探してほしいと思っている。またコミュニティの中から恋愛に発展したときも、仲間に相談ができたり、双方を知っているため適切なアドバイスができたりと、監視の目の役割も果たしている」(外山さん)

 今後は日本だけでなく、LGBTを容認していない国が多いアジアを中心に世界展開していく予定だという。2016年はアジアのユーザー数100万人を目標にしており、実際にフィリピンでは英語版をリリースして、現在300~400人が利用している。

 ◆ゲイやレズビアンが抱える悩みとは

 発表会には特別ゲストとして、タレント、文筆家で自身もレズビアンを公表している牧村朝子さん、ドラァグクイーン、ライターのエスムラルダさんが登場。外山さんを交えて3人の座談会が行われた。

LGBTに特化した新しいオンラインコミュニティアプリ「ネスティ」登場。LGBTが抱えるリアルな問題とは?

 牧村さんは日本初のレズビアンタレントとして芸能活動を行い、2012年にフランス人女性とPACS(フランス独自の制度で準結婚のようなもの)を交わし、フランスでの同性婚法制化を受けて2013年にフランスの法律に基づき結婚。エスムラルダさんは1994年からドラァグクイーンとして活動を開始。ライターとして執筆活動の傍ら、イベントやメディア出演、講演活動も行っている。

▼カミングアウトについて

エスムさん「物心ついたときから好きになるのは男の子。教わったわけでもないのにこれは誰にも言っちゃいけないと強く思っていた。いずれ直るだろうと自分をだましていたけれど、大学生になると周りにカップルが多くなり疎外感を覚えるようになった。一生自分は独りぼっちだと、その時に初めて自分のセクシュアリィティと向き合った」

牧村さん「女の子に初めて恋したのは10歳のとき。当時の文部省が同性愛を青少年の非行リストから外したばかりのころで、子供の同性愛というのは覚せい剤や親を殴ると同じことぐらいの犯罪だと思われていた時代だったので、自分の中で気持ちを押し殺していた。男の子と付き合っても可愛いらしい子を選んで、化粧をさせたり、スカートはかせたり(笑)。でも彼は本物の女の子じゃない、私は本物の女の子と付き合いたいと思ったのが22歳のときだった」

エスムさん「最初に言ったのが母親。親にまず背中を押してもらいたいという気持ちがあったと思う。大学2年の時初めて新宿2丁目に行き、こんな爛れた世界にはついていけないと思ったけれど、結局どっぷりになってしまった。そこで友だちができ、自分の恋愛なども隠さず話せる昂揚感もあって、その勢いで母親と姉にカミングアウトしてしまった。当時父は単身赴任で不在。母と姉は父には黙っていたので、20年も経ったけれど父にはいまだに知らせていない。今言ってしまうと自分だけ知らなかったことにショックを受けそうなので」

LGBTに特化した新しいオンラインコミュニティアプリ「ネスティ」登場。LGBTが抱えるリアルな問題とは?

外山さん「親にカミングアウトしたのは3年ほど前。厳格な親だとわかっていたので最後だった。高校生のとき眉毛を整えたぐらいで怒鳴られたほどで、厳格な父に告白するときはすごく緊張したけれど、最終的には『お前の人生だから自分で責任を持ちなさい』と。父も頑張って現実に向き合ってくれているとは思うが、号泣しながらの大変なカミングアウトだった」

牧村さん「親に黙って結婚はしたくなかったので、父に結婚したい女の人をきちんと紹介をしようと思っていた。でもレズビアンという言葉を使ったらすごくアレルギー反応を起こすと思ったので、何も言わずに『この人と結婚します』と写真を見せたところ、『女みたいな男だな』って(笑)。『女の子なの。この人と結婚するから会ってくれる?』と言って、その後はなし崩し的に・・・。今は妻を新しい娘として受け入れてくれている」

 ▼カミングアウトをして変わったこと

牧村さん「カミングアウトして大きくは変わったことはない。他の人に言ったからといって私が特に変わることはないので。でも自分に対して『女の子が好きだ』って言えたことは大きな経験だった。やっと体に魂が入ったって感じ」

外山さん「カミングアウトって自分自身を受け入れる作業。社会のジェンダー規範の中で生きている状況で、自分はおかしいんじゃないかと思っていたことを突破するという意味では大きいと思う」

エスムさん「日常生活の中で恋愛話なんて山ほど出てくるのに、本当のことを言えないのがハードルになっていて、完全に周囲に心を開けない部分が、とくにカミングアウトしていない人の中にはあると思う。相手もこの人は男ぽくないとか、恋愛の話しを全然しないという違和感を抱いていると思うし、こちらも常に嘘を言っている引け目があって、両者には見えない壁のようなものがあった。カミングアウトによって相手も疑問が解けて、こちらも本音を話すことができて関係性が良くなったことの方が多い」

▼LGBTのこれからの課題

牧村さん「LGBTと非LGBTの世界が分かれて存在し続けることがあって欲しくない。LGBTの人が自分はLGBTと名乗ることを強いられ、LGBTの出会い系アプリで出会い、LGBT向けの結婚式場で結婚し、LGBTフレンドリーな国に新婚旅行をし、LGBTフレンドリーな介護ホームに入って死んでいくみたいな、LGBTだけの世界に追いやられることはどうかなと思う。逆もそう。ストレート・アライアンスと呼ばれる人が、LGBTパレードに参加して応援しようと思っていても『なぜLGBTじゃないあなたが来るの?』みたいなことが、2016年の日本ではまだあると思う。今の段階では仕方がないけれど、将来は無くなって欲しい」

LGBTに特化した新しいオンラインコミュニティアプリ「ネスティ」登場。LGBTが抱えるリアルな問題とは?

外山さん「大学時代に女性にゲイだと言うと、『ゲイの友だちは初めて』、『ゲイの男性って気を使ってくれるからゲイの友だちが欲しかった』とか、今まで受け入れてもらえなかったので、最初は受け入れてくれたことがうれしかった。でも世間には、面白くて毒舌的というような“オカマ像”があり、僕もちょっと無理して世間のオカマ像、ゲイ像みたいものに無理に当てはめていたこともあった。これらのオカマ像、ゲイ像も世間からこぼれた人たちが勝ち取ってきた言葉であり行動だけれども、そこに自分が溺れるみたいな感覚があって違和感があった」

エスムさん「LGBTといえども一人一人はまったく違う。たかがセクシュアリティ、されどセクシュアリティで、大事な部分でもあるけれど個性のひとつでしかないのも確か。ノンケ(ストレート)でもふくよかな人が好き、年上の人が好きと性の在り方もそれぞれで、対象の性別で区切るからLGBTと分けられてしまうだけ。でもカテゴリーがないと、自分の中でアイデンティティを確立できないところもある。暫定的に自分を知るためにカテゴリーは必要だし大事なものだけど、その先は個でしかない。今LGBTの権利の問題がクローズアップされて変わっていく時期ではあるけれど、最終的には相手の個を見つめて理解するのが大事になると思う」

 ▼悩んでいる人へのメッセージ

牧村さん「妻にフランス語で悩むという言葉は?と聞いたら『うーん、とくに無い』と言われた。自分のセクシュアリティについて悩むということを表現するには“自分で自分に質問をする”という表現をするんですって。だから悩むことは決して悪いことじゃない」

LGBTに特化した新しいオンラインコミュニティアプリ「ネスティ」登場。LGBTが抱えるリアルな問題とは?

エスムさん「学生さん向けの講演で最後に言うのが『悩むのは大事なことに気づくきっかけになる』。私も20年間、誰にも言えずに悩んだけれど、それは他人を理解する上でいい経験になったと思っている。でも悩みすぎて心を壊したり、命を絶ってしまう人もいるのも事実。どこかで開き直りは大事になってくる。

 カミングアウトして最初の3日間、母が枕元で『それはあんたの思い込みだから。あんたは昔から思い込みが激しいから』ってささやいていたの(笑)。最初は迷ったけれど、4日目の朝に思い込みじゃないとはっきりわかった。母は『だったら結婚しないだろうから料理も覚えなくちゃね』と切り返しが早かった。うちの親は最大に悩んで3日間(笑)。悩みすぎてどうにもならないと思ったら、どこかで切り替えて開き直るのも大事だと思う」

▼友人からカミンググアウトされたらどう対応する?

エスムさん「変な気遣いとか、深刻に捉えられるとこちらもどうしようかと思ってしまうので、さらっと流してくれることが一番うれしい」

牧村さん「(性同一性障害のエッセイスト、イラストレーター)能町みね子さんもそれを指摘していた。『昔、男だったんですけど』と言ったら、『はい。それで?』と返されて驚いたと。聞き流してもらうのはうれしいですけど、『絶対そう言わなくちゃいけないのか』と思われるのも寂しい。要するにリラックスしたコミュニケーションが取れるといいね、ということかな」

LGBTに特化した新しいオンラインコミュニティアプリ「ネスティ」登場。LGBTが抱えるリアルな問題とは?

【AJの読み】LGBT?だからなに?別に普通じゃん。

 LGBTという言葉はよく聞かれるようになったが、ストレートの感覚でいうと興味本位で見ているところは正直否めない。だが実際にLGBTの方々と話をするとごくごく普通の感覚で、こちら側が勝手に壁を作っているのではないかと思った。しかし外山さんやゲストの方々が話していたように、LGBTを巡る環境や彼らが抱える大きな問題は「孤立」にあると感じた。仲間のつながりをメインとする「ネスティ」は、LGBTの方々に希望を見出せるアプリとなりえるのではないだろうか。


出典:@DIME アットダイム|ジャンル|Androidアプリ|LGBT向けアプリ「ネスティ」が構築する新しいコミュニティ