マツコ・デラックスの友人で徳光和夫の甥、慶応大学出身のインテリ女装家──。そんなふれこみでミッツ・マングローブさんがテレビに登場するようになってから約7年。いまではすっかり独自の立ち位置を確立しミッツさんが、作家・林真理子さんとの対談で、昔の2丁目を振り返った。
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林:ミッツさんはマツコさんと一緒に、いろんなイベントを企画したりしてたんですよね。楽しかったですか。
ミッツ:いま思うとね。当時は客が何人来るか、売り上げがいくらか、締め切りまでにこれをつくらなきゃと、カツカツ、ピリピリ、ドキドキでしたから、そう思う余裕もなかったですけど。
林:そういうイベントにお客さんがたくさん来て、テレビ局の人にも知られるようになって、それでタレント活動をされるようになったんですね。
ミッツ:そう。だから宴会芸みたいなウチらの芸を誰かが宴会でマネしてるかと思うと、世の中の変化の速さを感じますね。
林:でも、ミッツさんのマネは身長がないと難しいかもしれない。マツコさんは太った男の人がカツラをかぶればできそうだけど。
ミッツ:そうなんです。私はキャラクターにしにくいの。テレビに出始めのころは「キャラを立たせるために帽子かメガネでもしたら?」って先輩に言われたんだけど、それをしないのが私が狙うすき間産業だと思ってるんです。だから髪形やファッションもそんなに定着してないし、持ちギャグも定番のセリフもないでしょう。
林:そう言えばないですね。
ミッツ:そこがむしろ私のウリなのかなと思ってます。じゃないと、ビジュアルやキャラクターにインパクトのある、他の人たちにかなわないですよ。
林:2丁目には今もときどきいらっしゃるんでしょう?
ミッツ:近所に住んでるんで。行く店はほんの3、4軒ぐらいしかないんですけどね。ふつうのゲイの人たちが行くようなお店は、コワくて入れないから。
林:行ったらいじめられそう?
ミッツ:というか、6席くらいしかない狭い店の1席分とっちゃうのが申し訳なくて。みんな出会いを求めて店に行くわけですからね。だから女の人も、純粋なゲイバーにむやみに行くものじゃないですよ。今、2丁目は観光地化しちゃって女の子のほうが多いくらいだけど、そういう人に向けたお店がちゃんとありますから。
林:外国の方もいます?
ミッツ:いますね。中国や台湾の方が多いです。アジアのゲイシーンがここ10年ぐらいすごくオープンになってきましたから。
林:ミッツさんは初めて2丁目を訪れたとき、居心地がいいという感じ、ありました?
ミッツ:男として行ったときは、ヘエーという驚きでしたね。「あ、同じような人がいるんだ」みたいな。でも私たちははじかれ者というか、男にモテないやつらが自虐的にやったのが女装なんですよ。2丁目的な同性愛のヒエラルキーの中では、最下層なんです。
林:そうなんですか。初めて知りました。
ミッツ:トップは、顔がよくて筋肉があってファッションセンスがよくて、お金も持っているゲイの人。
林:そういう方ってどこにいるのかしら。
ミッツ:2丁目にもいますし、どこにでもいるんじゃないですか(笑)。
出典:女装は最下層? が同性愛ヒエラルキー語る 〈週刊朝日〉|dot.ドット 朝日新聞出版