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キャリーバッグを引いた若者たちが次々と集まる。ここは鞍手町新北の旧鞍手南中。昨年3月に閉校となったはずだが、「掃除の時間になりました。皆さん受付まで掃除道具を取りに来てください」との校内放送が流れた。姿を現したのはピンクや金髪の女子生徒たち。制服も紫や緑、オレンジと個性的。まるでアニメのキャラクターだ。

 44年の歴史に幕を閉じた廃校舎が、コスプレ愛好家向けの架空の「くらて学園」に変身したのは昨夏。町から廃校舎利用について相談を受けた福岡市の企画会社役員、重松克則さん(53)が温めていたアイデアを持ちかけた。「校内で着替えるのがルール。いきなりコスプレ姿で登場したら周囲の住民も驚く。着替えたら雰囲気も性格もガラリと変わりますよ」。生き生きとした“生徒”たちを見て、学園の運営会社理事長を務める重松さんは目を細めた。

 昨年7月以降、コスプレ愛好家が集うイベントを5回開催。多いときは福岡、北九州両市のほか、九州内外から約200人が集まった。昨年12月中旬の「年末コスプレ大掃除イベント」には約40人が参加。制服姿の女性たちが楽しそうに教室や廊下の床を拭いていた。

 オタク系のイベントに参加し、インターネットに情報を公開している男性(40)は「専属のカメラマンを連れたガチなレイヤー(本格的なコスプレ愛好家)も多く、それだけにオタク業界の関心は高い。知名度は今後もっと高まるはず」と語る。

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 筑豊地区では少子化に伴い、小中学校の統廃合が進む。使われなくなった校舎は過疎地域に多く、財政状況が厳しい自治体は、活用や補修に向けて公費を投入できないのが実情だ。研究施設として大学などと利用協定を結ぶ自治体もあるが、活用されないままの校舎は少なくない。

 くらて学園は「廃校舎利用による観光を伴うサブカルチャービジネスと創業支援事業」として、国の地方創生先行型事業に選ばれた。国からの交付金は総額3750万円。既に電気やトイレなどの施設改修工事が始まっている。立体的なフィギュアなどが作成できる高額の3Dプリンターなどもそろえる計画だ。

 重松さんは「本物の学校を使えるメリットを政府にも認めてもらった。アニメ人気に国境はなく、海外からも人を集める『コスプレの聖地』になる潜在力を秘めている」と力を込める。

 新年度からは漫画家や声優の育成を目的にした「インキュベーション事業」もスタートする。希望者はプロも使用する先端機器でマンガやアニメの創作活動に取り組み、同好の仲間たちと交流できるという。

 町も熱い視線を送る。「廃校舎を資産と考えることで可能性が広がった。これまで町への観光客はゴルフ以外にほとんどなく、学園によって鞍手町全体のイメージアップにつなげたい」と町地域振興課の担当者。施設活用にとどまらない効果に期待が膨らむ。


出典:【いまどきの学校・筑豊から】<7>廃校舎利用 コスプレ愛好家集う場に - 西日本新聞